2020年2月19日水曜日
拾い読み日記 157
私は望遠鏡に目を当て、あの女性読者に照準を合わせる。彼女の目と本のページの間を白い蝶が舞っている。たとえ彼女がどんなものを読んでいようと今彼女の注意を惹いているのはあの蝶であることは確かだ。書かれていない世界の極地はあの蝶の中にあるのだ。私の目指すべき結果はなにか明確で、静謐で、軽やかなものだ。(イタロ・カルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』)
扇状にひろがる羽みたいな雲、風にゆれる白い花びら。白いものばかりに目がいくのは、そこに、白い頁のまぼろしをみているからなのだろうか。
昨日は、ハマスホイの絵をみた。不安は感じなかった。ただ気持ちがよかった。身体の奥からほどけていく、甘いような、痺れるような感覚は、どこからくるのだろう。おおきな静けさに触れられて、一瞬なにもかも遠のいていって、こういう体験を、ずっと待っていたように思った。