2021年2月22日月曜日

拾い読み日記 228

 
 急に気温があがり、はやく出かけたくてそわそわする。やや躁状態なのかもしれない。本をどんどん買うのだが、ほとんど読み進められない。それなら書きうつすしかない。

 絵具のにじみ(抱握する形)は、画布の繊維構造(抱握される形)を部分的にうつす記号である。生物の知覚(抱握する形)は、外的環境(抱握される形)を部分的に抽出して変換する記号である。現在の私の思考(抱握する形)は、過去の私や他の者たちの思考(抱握される形)を変換して継続する記号である。

 平倉圭『かたちは思考する』の序章を読んでいて、ここにさしかかったとき、書き留めておかなければ、と思った。たびたびはっとして、顔を上げ、考え込んでしまう本なので、なかなか進まない。それでなくとも、思いがあちらこちらに飛びやすい季節だ。

2021年2月6日土曜日

拾い読み日記 227


 北向きの部屋の窓辺で、目をとじて、シジュウカラのみずみずしいさえずりに耳をかたむけていたら、北窓開く、という季語を思い出した。どんな句があるのかな、と歳時記を開く。

 北窓をひらく誰かに会ふやうに  今井杏太郎

 北窓をひらいて、本をひらいて、言葉に会う。ひとりの時間なのに、人と話しているときみたいに心が浮きたって、さわさわ、ふわふわしている。
 風はまだつめたいけれど、ひかりに春がまじっている。ツツピツツピツツピツツピ。シジュウカラはいつまでもかわいらしい声で鳴いていて、窓辺にならべたぬいぐるみも、うれしそうに見えた。

2021年2月1日月曜日

拾い読み日記 226

 
 昨日の午前中、散歩から帰ってきて窓を開けると、あたたかな日差しとやわらかな風がはいりこんできて、なんとなくなつかしい、いいにおいがした。なんのにおいか、思いだせそうで思いだせなくて、動物みたいに、しばらく鼻をくんくんさせていた。ふと、すきな俳句があたまをかすめた。

 だれかどこかで何かさやけり春隣  万太郎

 耳のあたりがくすぐったくなるような句だな、と思う。耳も、鼻も、おなかのあたりも。みんなが春のうわさをしているみたいだ。ことばを持つもの、持たないもの。ささやきは遠くから、近くから、さらさらと風にのって流れてくる。