2023年5月28日日曜日

ある日/迷う


立ち飲み屋で手から滑り落ちたiPhoneの画面が割れた。叩き割られたみたいな割れ方だった。8年使ったので、そろそろくたびれている感じもしていた。遅かったり、かたまったり、熱くなったり。自分の寿命を悟って、自ら壊れにいったのかもしれない。ありがとう、といって別れた。面倒くさくてずうっとのばしのばしにしていた機種変更が、ようやく出来た。あたらしい端末を持って、知らない町を歩く。もう、現在位置がわからなくなることもない。この先、道に迷うことはないのだろうか。それは、とても、貧しいことではないだろうか。
「自分がどこにいるのか、どこから来たのか、どこへ行くのか、どうしたらよいのか。何もかもがよくわからず、わかりたいという積極的な意志も曖昧に稀薄化し、世界と自分が流動的に溶けあっている時空をただ熱病的に漂流していたいという欲望へと向けて軀をひらききり、迷子になった幼児の不安の甘美な倒錯性のなかで溺れてしまうこと。」(松浦寿輝『スローモーション』)
バス停で、所在なげにしている若い人がいて、バスは来ますか、とたずねると、まだ来ない、という。ちらと時刻表を見ると、最後のバスが来る時刻はとっくのとうに過ぎていた。あの人は、きっと、別の時間のなかにいて、何らかのゆがみによって、すれちがうことができたのかもしれない、と今になって思う。あの人の時間のなかに、まぎれこんでみたい。




2023年5月25日木曜日

ある日/離陸


機内で食べるチョコレートを買って店を出たら、同行者が青ざめて、もうフライトの時間だ、という。搭乗する場所は空港の「はなれ」だと知り、スーツケースを転がし、つまずき、息を切らして走りつづけて町はずれまで。それから飛行機は歩いている人をよけながら滑走路を走り、離陸した。見下ろす町に巨大な羽で出来た建物があった。からだが浮きあがる。飛んでいく。奇妙な都市からどこかへ。目がさめたとき、辿り着いた、という感覚があった。この場所に。この朝に。この「わたし」に。ごごごご、という離陸の音は、おそらく、隣に眠る者の鼾だった。

2023年5月24日水曜日

ある日/のびている木


冬にばっさり切られた柿の木からどんどん芽が出てみるみるうちにさみどりの葉でふさふさしてきた。冬のあいだは、まるで「切られた」という事実そのものを見ているようで、窓の外に目をむけるたびかすかに暗いきもちになったものだが、今は、「のびている」という状態を、毎日見ている。いや、「のびる」という動詞そのものを、見せられている気さえする。木の、第二の生がはじまったのだ。どこまでいくだろう。

2023年5月23日火曜日

fumbling(ポップアップ)

 
 sunny boy booksでのfumbling展にお越しくださったみなさま、どうもありがとうございました。期間中に新型コロナウイルスに感染してしまい、ほとんどねてすごしてましたが、すっかり回復しました。ほとんどの方とお会いできなかったのは残念ですが、うつさなくてよかったです。

 6月11日(日)から、沖縄の、本と商い ある日、の喫茶コーナーにて、「fumbling ポップアップ」、つまり、ちいさな巡回展がありますので、お近くの方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。
 
 また、6月6日(火)から、渋谷のウィリアムモリスで開催予定の「195人の作家から届いた、手がみ展」に参加します。これは、モリスの30周年の記念展で、これまで展示した作家たちから届いた手紙(はがき)を展示するというものです。(6月29日まで、日・月・17日休み)
 30年、お店を続けるということは、すごいことだなあ……と思います。身近なところでいうと、sunny boy booksがこの6月で10年、水中書店も来年の1月で10年だそうで、これも、素直に、すごいことだと思いますし、なんだか、時間の経つのが、やけにはやいなあ、と思いました。
 
 昨日、ブログ書いたから読んで読んで、といわれ、ほぼ3ヶ月ぶりに書かれたブログの日記を読んでいたら、触発されたというのか、じぶんも、また何か書き留めておきたいような気持ちになりました。まだわかりませんが、あせらずに、自分のペースで、やりたいことをやってみます。

 何はともあれ、お身体に気をつけてお過ごしください。

2023年5月8日月曜日

fumbling 開催中です




 SUNNY BOY BOOKSにて、「fumbling」展、開催中です。
 
 今回、手さぐりでいろいろとつくってみて、これまでにないおもしろさと手ごたえ(つかれ)を感じ、展示がはじまってから、その、つかれがどっと出てしまいまして、いまはちょっと休んでいます。逆に、それだけ身体をつかったのだなあ。つかえて、よかったなあ。と、前向きにかんがえられるくらいには、回復しています。
 かたちとことば、紙と印刷について、もっとあれこれ手さぐりしたい、ためしてみたい、というきもちが大きくなりました。
 
 fumble、すなわち、さがしまわる、くちごもる、うまくあつかえない、へまをやる、しくじる。なんてすてきなことばなのでしょう……じぶんの言動がすべてすくわれていくようです。『fumbling』の制作をめぐるfumblingな話は、長くなりそうなので、はぶきたいです。

 手さぐりつながり(というか、なんというか)で、ananas pressの『making』も、置いてます。こちらは5年前につくった本で、100部限定、残部僅少となっていますので、どうぞこの機会にごらんいただけたら。

 展示はのこり3日となりました。わたしはおりませんが、社長がいますので、どうぞよろしくおねがいします。