2020年5月1日金曜日

拾い読み日記 179


 ときどき、ずいぶん高いところから、シジュウカラのさえずりが聞こえる。よく響く、澄んだ鳴き声で、耳をすませていると、こころが遠いところへ誘われる。
 歩いていると、ジャスミンの花が、よく匂う。つよい、甘い匂い。何かを誘惑しているような。

 このところ、午前中にしごとをして、午後からのんびりすることにしていたが、午後はつかれて、ねてしまうことが多く、すきなことができないストレスがあったので、昨日から、逆にしてみた。そしたら、眠くならない。だから、いろいろなことができる。一日が、みっちりしてくる。

 ナタリア・ギンズブルグ『モンテ・フェルモの丘の家』(須賀敦子訳、ちくま文庫)を読み終えた。買ってから、もう10数年経っている。なかなか通して読めなくて、拾い読みしかしてなかったが、このあいだからどんどん読めて、とうとう、読み終えた。
 たくさんの死があり、たくさんの恋があり、いろいろな友情があった。それらすべてが一気に遠のいてしまったようで、とても淋しい。それぞれに、チャーミングで、おろかで、情のあつい、いとおしい人たち。手紙だけでできた小説だから、慕わしさがあとをひく。明日から、何を読めばいいのだろう。

 読み終えた小説は手放すことが多いのだけど、これは、もうカバーがぼろぼろになり捨ててしまったし(ちくま文庫のカバーはよわい)、最後のページには、何のしみだかわからないしみまであったので、売れない。かといって、捨てられるわけもない。

 なたの長くのばした、すくない髪の毛。あなたの眼鏡。あなたの高い鼻。やせた、ながい脚。大きなあなたの手。いつもつめたかった。暑いときでも。そんなあなたを憶えています。