電車を乗り継いで「影どもの住む部屋」へ。ふしぎな展示だった。静かすぎて少し緊張した。瀧口の笑顔がめずらしくて、ある写真をつくづくと眺める。いつも、親戚の誰かに似ている、と思うが、具体的に誰だかわからない。どことなくなつかしい顔。写真の中の、所在なげな、放心したような表情が好きだったが、笑顔もとても素敵だった。冊子をもらった。文字組みが横組み、ノドを跨いで見開きいっぱいに一行。行末から行頭へ、視線の動きが大きすぎて、意味がなかなか摑めない。元気なときなら読めるだろうか。
句集も鞄に入れていった。中村苑子『白鳥の歌』という小さな本。
春の日やあの世この世と馬車を駆り
帰らざればわが空席に散る桜
再びは逢はぬ人かも鳥雲に
死後の春先づ長箸がゆき交ひて
「長箸」とは、自分の骨が拾われる箸だろうか? 底の知れない深いみずうみをのぞきこんだような気持ちになる。中村苑子は1月5日に亡くなっている。70のときに、60の重信を亡くしたことを知る。