2020年4月21日火曜日

拾い読み日記 176


 おそろしい夢をみて目が覚めたらまだ真夜中で、部屋に見知らぬ人がいる。それは夢ではなく幻覚で、ほんとうには誰もいないのだと気がついても、しばらく心臓がはげしく脈打っていて、人はもしかしたらこんなふうにぷっつりと死んでしまうこともあるのかもしれない、と思った。おそろしい夢とは、こころのなかまでつねに誰かに監視されている、それに気づいてしまった、という夢だった。読解しやすい夢だね、と夫にいわれるのはいつものことで、そういう夫は、わたしとフレンチレストランでコース料理をたべる夢をみたそうだ。おいしくて、たのしかったそうなのだった。

 ようやく時間ができたので、ゆっくり本が読める。

 リルケ「若き詩人への手紙」(『若き詩人への手紙・若き女性への手紙』高安国世訳、新潮文庫)を少し読んでは、顔をあげて、かんがえごとをしている。

 すべての物事のはじまる以前にいらっしゃるのですから、私はできるだけあなたにお願いしておきたいのです、あなたの心の中の未解決のものすべてに対して忍耐を持たれることを。そうして問い自身を、例(たと)えば閉ざされた部屋のように、あるいは非常に未知な言語で書かれた書物のように、愛されることを。(下線部は傍点)

 きっと、何かがはじまるのだと思うのだけれど、それが何かはまだわからない。