2020年4月5日日曜日
拾い読み日記 170
6日ぶりに電車に乗った。窓から町を眺めていて、流れていく景色の中に桜の色もまざっていて、春だなあ、と思った。電車はすいていて、つかのまのんびりした気持ちになるが、ときどきマスクで眼鏡がくもって、現実に戻る。
今日で閉店する荻窪のささま書店へ。棚を見て、気になる本を開いて読んでいると、今日で閉店ということも忘れてしまう。
ひとりになり、買った本たちに触れていると、何だかむしょうにさみしくなるけれど、このさみしさは、本で埋めるほかない。
こんにちは
新年おめでとう
ご幸運を
頑張って
召し上がれ
お気をつけて!
どうか、無口のせいで鬱々としているきみに言葉が戻ってきますように!
どうか、白い紙でできたきみの経帷子に生き生きとしたアラベスク模様がインクで描かれますように!
どうか、きみのなかで蜘蛛が巣を張り、その巣に蠅がきみの思いどおりに引っかかりますように!
どうか、きみがノートを広げているテーブルが帆船となり、その帆に風が吹いて舟が動きますように!
ミシェル・レリス『オランピアの頸のリボン』(谷昌親訳、人文書院)より。「広くて楽しい古本屋」で最後に買った本。
本が生きのび、生きなおす古本屋という空間は、誰にでも開かれているのに、親密で、きっと人はそこで、文学の秘密にも、知らず知らず触れている。
あの、大らかなのに、人を深く引き込むような空間は、そのまま、「本」だった、といいたくなる。