散歩の帰り、鹿毛の馬を2頭見た。注意書きがあった。大きな音に馬が驚きます/ご注意ください。馬にふさわしいように、できるだけしいんとした自分になって、金網越しに凝視していると、馬はとても凜々しくて、艶やかで、しずかで、あこがれのひとを盗みみている気がした。それほど、うつくしいのだった。遠いむかし、馬に恋してむすばれた娘の気持ちが、なんとなくわかる。もっと近づきたいけれど、こわい気もする。大きいからだに構えてしまいそうだし、一度ひかれるとのめりこみそうだし、そうしたらそのままどこかに連れ去られて、帰ってこられなくなるかもしれないし。
昨年ばっさり枝下ろしされた梅の木に、白い花が咲いた。それで、マティスの日記を読み返す。
ヴァンスに着いてどうして自分があんなにひとりぼっちの気持だったのか今朝それがわかりました。それはつまり——樹木がすべて枝おろしをやられていたのです。(『マティス 画家のノート』)
これまでにしたしんだ木のことを思った。あるときは近所のスダジイに、あるときは隣家の泰山木に、またあるときは目の前の柿の木に、こころを寄せてきた。木をじいっと見ているときは、いつもひとりだったけれど、ひとりでなければ、ふかまらない関係があるのだろう。木はいつでも、しずかな力で、明るいほうへ、わたしをのばそうとした。
