雪が降りしきるなか、投票所へ。思ったより寒くない、そのことを忘れていた。あしうらが雪を踏む、きしきし、という感触がなつかしかった。あしがよろこんでいた。白い空から白い雪が降る。見上げると、白い雪は薄いグレーだった。墨を一滴だけおとしたくらいの淡さ。空の一部がはがれて、欠片になっておちてくるようだった。欠片はつぎからつぎへと、天から地へはこばれていった。
天地(あめつち)の息合ひて激し雪降らす 野沢節子
鼻をぐずつかせながら投票して、立会人の机にボックスティッシュがあったので、一枚いただけますか、といったらその人はとてもおどろいたようだった。箱が開いてなかったから? いわなければよかった、と思ったが、戸惑いながらもその青年は、箱を開けて、2枚くれた。
木に積もる雪を立ち止まって見つめた。あのとき、人も車もいなくて、とてもしずかで。ちり、とかすかな音がした。雪片が傘に触れる音。お酒を買って家に戻り、のみながら、本を読んだり窓の外を見たりして過ごす。雪からひろがるしんとした世界のなかで、息をふかく吸って、吐いて。
白い紙に白い箔押しは、雪にのこされた足跡みたいだ、と思う。だから何度も触りたくなる。指が表紙のうえを、あきることなく歩きまわる。
