二度、葉擦れの音に立ち止まった。二度目の木はたしかシラカシで、一度目の木より、やや低い音がした。同じ葉擦れの音といっても、葉の厚さや、大きさや、風の吹きかたによって、微妙に異なる。日陰で、すこし寒いと感じた。それでも、世界の秘密をささやいているようなその木を前にして、かつて、どこかで、このような音を聞いた気がして、立ち去りがたかった。
帰ってきてから、宮沢賢治の詩集を手にして、その音に似たものを探したのだが、見つけることはできなかった。「わたくしは森やのはらのこひびと」。異界からの声だったかもしれない。異界とは、きっと、なつかしい場所なのだろう。
50年以上前に刷られた文庫本は、表紙も天地も小口も茶色く焼けてしまって、詩が、木の肌でおおわれているように見える。
