湿った土の匂いのする小屋で、詩人の朗読は始まった。聞いている者はわたしひとりだったが、彼はそのことを気に留めてはいなかった。それで、彼はわたしを待っていたのだ、とわかった。どのような詩だったか、すべて忘れてしまった。長い詩だった。耳で聞いても流れていってしまうから、言葉をひとつだけ、拾ってもらったらそれでじゅうぶんだ、と詩人はいった。
その後、塔のなかにいた。とつぜん無重力の世界に変わる。とても無口な人とつかまりあって空中にうかび、ゆらゆらしているうちにその人は黒いかたまりになってしまった。そのかたまりに、もう手を離してもいいか、とたずねると、まだここにいてほしい、という。
目が覚めると隣の人と目が合って、今朝も、いい顔で(トラーみたいに)、笑いかけてくれる。夢をたくさんみた、とだけ伝えた。この世界ではない世界で出会ったひとたちのことは、いわなかった。
