2026年7月15日水曜日

球とたましい

 
 はじめての場所で、はじめてのひとたちと球を打ち合う。
ちいさな声で話す白髪の女性がいた。20歳ほど年上だろうか。その中身、なんですか? 水筒の飲み物についてほかのひとにたずねられて、緑茶です、とこたえると、横から、お茶の色とユニフォームの色が合っていますね、と、ちょっとおもしろいことを、その女性は言った。趣味のよさと品のよさを感じさせる、ひかえめな口調だった。すこし言葉を交わしただけで、そのひとがどういうひとなのか、わかる。それはたぶん錯覚だけれど、ある程度、あたまのなかに、その人物像ができあがる。

 彼女と打ち合ってみると、いきなりバックサイド深いところに速いロングサーブが来て不意をつかれる。そのサーブでバック側に意識を向けさせて、フォア前の短いサーブでこちらを揺さぶろうとする。相手にまったく隙をあたえない、勝つための卓球だった。そして少しでも球が浮いたら、びっくりするくらい力強いスマッシュが飛んできた。ラケットの振り方に、殺気すら感じた。さっきまでのあのやさしいひとは、どこにいったの? 人間の多面性におどろきながら、初対面の相手にこんなにも「全力」をぶつけられることのよろこびを、全身に感じた。強打を決められてうれしくなったのは、はじめてかもしれない。

 それは、おそらく、身近な者たちには見せることのないはげしさであるだろう。球によって、奥にひそむものが飛び出してきたのだ。あの球にこめられていて、わたしを強く打ったものは、彼女の「たましい」だったのではないか。そんな気がしてならない。わたしには、まだ、あのような球を打つことができない。