機内で食べるチョコレートを買って店を出たら、同行者が青ざめて、もうフライトの時間だ、という。搭乗する場所は空港の「はなれ」だと知り、スーツケースを転がし、つまずき、息を切らして走りつづけて町はずれまで。それから飛行機は歩いている人をよけながら滑走路を走り、離陸した。見下ろす町に巨大な羽で出来た建物があった。からだが浮きあがる。飛んでいく。奇妙な都市からどこかへ。目がさめたとき、辿り着いた、という感覚があった。この場所に。この朝に。この「わたし」に。ごごごご、という離陸の音は、おそらく、隣に眠る者の鼾だった。