2011年6月13日月曜日

松本





 アメリカ   辻征夫


土砂降りの雨のなか

レインコートの襟たてて

猫と

鸚鵡と

子豚のブギウギつれてアメリカへ行った

夢をみた

(くしゃみ)して


目覚めれば

玄関に

猫と

鸚鵡と

ブギウギと

雫したたる傘があり

旅の疲れがどっと出た


(『辻征夫詩集成』書肆山田)



ぐるぐる歩きまわって汗をかいて、湿ったぞうきんみたいなからだを引きずるようにして五日ぶりの家に帰ってみると、待っていたのは干しっぱなしの洗濯ものとよごれもの、ビールの空き缶に二つ折りで重なった新聞の山です。家の者は、新しいまん丸いめがねをかけて、しれっと「おかえり」といいます。旅の疲れがどっと出ましたが、めがねがなかなか似あうので、まあ、いいことにしました。本音をいえば、洗濯ものには、気づいてほしかったけれども。


実家のある高岡から糸魚川を経由して穂高へ、友だちの結婚式に参加して、帰りは松本に立ち寄って帰ってきました。


松本で買ったものは、野鳥のブローチ三個と古本六冊。その中の一冊をすこし拾い読みして気持ちを落ちつけてから、たまった家事と仕事に取りかかることにします。


ある風景をだまってながめる、それだけで欲望をだまらせるに十分な日がくるのだ。空白が、ただちに充実に置きかえられる。


J・グルニエ『孤島』(井上究一郎訳/竹内書店新社)


旅先で見た風景が、本の言葉にかさなります。車窓からながめた、夢か幻のように淡くにじんだ水平線と、鳥を探しながらあおぎ見た、安曇野のつややかで匂うような緑と。こころのすみずみまで平らかで、満ちたりていた時間でした。


写真は松本の古本屋にて。二軒訪ねて、二軒ともで、猫の話に花が咲きました。



追伸 あきさんの展示がはじまりました!