2026年11月3日火曜日

霧の朝


 外はまだ暗くて、ベランダに出てあたりをみると、霧が出ていて息をのんだ。なにもかもが、やさしくかすんでみえる。やわらかくくぐもっている。欠けてゆく月が、白く光っている。ゆったりとはばたく鳥が、あらわれて消えた。町とともに、一瞬にして、魔法にかけられたようだった。
 やがて東の空があかるんで、あまい蜜の色になる。それから、まるい太陽が顔をだした。橙にクリームをとかした色。バターに朱を一滴いれた色。このような色を、どうしたら正確に記憶できるのか、そのすべを知りたい。 

 珈琲を淹れるまえに、詩集をひらいた。霧から連想した詩人の詩集。「人生は、/きみがいとおしむ人生は、ひとつの長い誤謬で、/(みじかくて、金色で、ほんのまぼろしで!)」(ウンベルト・サバ「第一のフーガ」より)

 「(みじかくて、金色で、ほんのまぼろしで!)」が、太字になっている。ふいにやってくる奇蹟のように綺麗なものは、すぐに消えていく。生そのものが、そうなのだ、ということが、しだいにわかりはじめたから、書くことを、ためらわなくなったのかもしれない。