桜が咲いて、欅が芽吹いた。このあたりの眺めと空気が変わった。風のなかにほのかな甘い匂いがまじり、細かくふるえてやまないものたちの気配を、肌で感じる。いつのまに。いつもそう思う。巡りくるものを全身でうけとめるためには、身体のこわばりをほどかなければいけない。忘れていたやわらかさをとりもどすこと。
読んだものに影響されやすい性質を、うまく使いたい。ソル・ルウィットの手紙の言葉は、よい呪文だ。「あなたの掌には何だってできる力がある」。こうして書き留めていて、気付く。近くにいる人が、前から言ってくれていたことだった。
近ごろ、わるい夢をみなくなった。きのう近所で見かけたのは、小枝をくわえた鴉。桜の木を見上げる若い人。樹上の尾長。二羽、いた。あの羽の色を、もっと近くで見たかった。
