2024年9月1日日曜日

拾い読み日記 309

 
 弱った蟬が、びびび、ぶぶぶと音を立てて、力なく飛びまわっている。夜の廊下で、まるで、取り乱した人みたいに。どうしたものか、いや、どうもできない、と通り過ぎようとしたとき、蟬が、服の、裾のほうにとまった。じっとしている。あわてずに、さわがずに、蟬を服につけたまま歩き出すと、やがて、飛び去った。蟬に、柱か壁だとかんちがいされたのだろうか。すくなくとも、危害を加えるものではないと思われたことは、たしかだろう。かんちがいされたことが、すこし、うれしかった。

 眠りが浅く、深夜2時ごろ目が覚めてしまう。暗いなかで目をつむっていても、いっこうに眠気はおとずれない。

 もうくりかえし読んでいる杉浦日向子『YASUJI東京』を、また読む。
 井上安治が小林清親に入門した雪の日を描いたページがとても好きで、じいっとその白い風景のなかに入りこむように見ていると、こころが、おちついた。しんしんとしずけさが降りつもり、まぶたにも胸にもあたまにも白がひろがって、ようやく眠れた。