2024年8月20日火曜日

拾い読み日記 307


 部屋を出て、階段を降りると、死んだ虫をたびたび見かける。蟬、蛾、コガネムシ、カメムシ、トンボ、などなど。死に場所に、ここは、ちょうどいいのだろうか。今朝は、蟬が、3匹も死んでいた。もう、夏も終わりに向かっている。

 やるべきこと、考えなければならないことが多くて、やや鬱屈してきたようなので、午前中、プールで泳いだ。午前中に泳ぐのは、一年ぶりだった。朝の光が水底でゆらゆらゆれてかがやくので、泳ぐより、それをずうっと見ていたかった。水という不定型なものによって、やわらかなかたちができて、重なり、つながって、模様ができているようすが、おもしろかった。それから、水にうかんで、空や木を眺めたりした。

 カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』を読んだ。『クララとお日さま』もひといきに読んだが、これも、読み始めたら止まらなかった。イシグロは、小説を書くのが、異常にうまい、と思った。
 人間ではない(とされる)ものの回想によって、物語は進んでいく。回想という行為には、どこか、淋しさや喪失感をともなうものだが、彼女たちは、人間によって振りまわされ、都合よく使われ、「使命を終えた」あとは、なすすべもなくすてられる運命にあるのだから、よけいに、切なかった。
 これからは、いっそう、ぬいぐるみにやさしくしよう、と思う。ぬいぐるみが今の暮らしを回想したとき、しあわせだった、と思ってもらえたら、うれしい。

 読んだあと、表紙がくるんと反りかえった文庫本を見て、Mが、おもしろいことをいった。反った紙が、やあ、といって挙げた手に見える、と。おもしろかった? 本にそう聞かれたら、迷わず、うん、とっても、と答えよう。