この10年ほど、テレビのない生活をしている。若い俳優やアイドルの顔も名前もほとんどわからないが、2年くらい前に夫がSnow Manのことを教えてくれて、それから、ふたりでときどきダンスの動画を見たりしていた。そろっていて、いいね。かわいいね。とかいいあいながら。集団で、そろっていたり、がんばっていたり、たのしそうにしていたりする様子をみていると、こころがなごむ。「11ぴきのねこ」みたいだな、と思う。
9人もいて、背の高いラウールくん以外、とてもおぼえられそうにない、と思っていたのに、いつのまにか、全員の顔や名前だけでなく、趣味や特技まで知ってしまった。ザリガニ釣りが得意、とか、円周率が100桁いえる、とか、べつに知る気もなかったのに。
ある動画で、ライブへの意気込みを聞かれたメンバー何人かが、「爪痕を残したい」といういいかたをしていて、へんなの、と思った。爪痕を残す、といったら、被害をあらわすときとか、悪い意味で使うものだと思っていたら、最近は、印象づける、みたいな意味でも使われているらしいのだった。
それで、20代のときに読んだ詩の一節が、あたまをよぎった。
人はたったひとつの自分の一生を生きることしか出来なくて
あといくつかの他人の人生をひっかいたくらいで終わる
でもそのひっかきかたに自分の一生がかかっているのだ
それがドタバタ喜劇にすぎなかったとしても
谷川俊太郎「午前二時のサイレント映画」より。この詩が載っている『世間知ラズ』という詩集は、刊行されたころに買ったけれど、手放して、ずいぶん経っていた。それを、3月にSUNNY BOY BOOKSで見つけて、なんとなく、また読んでみたいな、と思って買った。
「そもそも人生には、目的なんてない。人生は続くこと、それ自体に意味があるのです」。このあいだサニーでもらってきた「AFTER2025」というフリーペーパーに、ティム・インゴルドのインタビューが載っていて、近ごろ考えていることと通い合うところがあったので、本棚にある『生きていること』を手にとってみた。読むかどうかは、まだわからない。