本をひらいて読むことは、本をおとずれることだ。わたしが本をおとずれる。すると、本はわたしをおとずれる。わたしと本は、向かいあって、触れあって、手をつなぎ、輪をつくる。わたしと本、ほかにはだれも入れない小さな輪を。それぞれが、言葉をひびかせあう空間になる。
砂利のような書く理由。言葉と戯れる。意味と闘う。砂利をつみあげ壁を作る。何も記録しない。何も描写しない。何も語らない。つみあげた砂利は崩れる。理由は崩れる。砂利だけ残っている。光がない。砂利を握り、重さを測っている。誰かいる。誰もいない。(宇野邦一『日付のない断片から』)
今日も曇天。空気が重い。こんな天気、こんな湿度のときにしか、手にとらない本がある。
青い実が落ちた音がした。小さな実なのに、落ちるとき、心臓にじかに響くような鋭い音がする。