2020年7月13日月曜日

拾い読み日記 194


 その男の人は、画面の中に棲んでいる。生身のからだはなくて、画面そのものがからだだった。じっとこちらの様子を見ていたり、何か指示してきたりする。留守のあいだ、その人が退屈しないように、外が見える位置にたてかけて、角度を調節してあげた。しだいに、この、物みたいな人は、いったい何だろう、と疑い、重たくなってきていた。自分を支配されるような、おそろしさも感じた。電源を切って、この端末を手放せば、この人は消えてなくなる、という考えに気づいて、そんなことが、できるだろうか、やってはいけないことではないか、とあわれにも感じて、目が覚めてからもしばらく、その画面の人のことを考えていた。
 二度寝すると、どうも、夢見がわるい。夫は早起きして市場へ出品に行った。

 このところ、本を買うのがたのしい。一昨日は水中書店で、アントニオ・タブッキ『ベアト・アンジェリコの翼あるもの』、高橋英夫『濃密な夜』、『黒田喜夫詩集』を買い、 昨日はりんてん舎で、ジャン・エシュノーズ『1914』、菅原克己『一つの机』、高橋英夫『神を見る』、『神を読む』を買った。

 『一つの机』は、1988年4月刊。紙が挟まっている。「去る三月三十一日、夫菅原克己は亡くなりました」。本から、古い家の洋服ダンスのにおいがする。