2018年3月3日土曜日
拾い読み日記 25
今日は一日製本の日なので、明るいうちに外を歩きたくて、朝食をとりに出かけた。午前中の光をゆっくり浴びるのは久しぶりで、何もかもがまぶしく、かがやいて見える。紅梅と白梅の木を見かけた。さっき穴から出てきたモグラみたいにうきうきする。これからしばらく家での作業が続くので、ときどきこんなふうに、朝、自分を外に連れだしてみようと思う。昨日の昼間はほとんど家から出なかったせいか、だるくて気が散ってしょうがなかった。今朝は、おだやかですこやかな気分。
パン屋のカフェで、買ったばかりの文庫本を読んだ。ヴァルター・ベンヤミン『ボードレール 他五篇』。読みたかった「カフカについての手紙」が入っている。
「カフカという形姿を、その純粋さとその独自な美しさとにおいて、正しく評価するためには、それが挫折した人間の形姿である、というひとつのことを、ひとはけっして見失ってはならない。この挫折にはいろいろの状況が絡まっている。が、ぼくとしてはこういってみたい——かれには、究極の失敗が確かに思えてから、ようやく、途上のすべてが夢の中でのようにうまくいったのだ、と。」
製本に戻ろう。まず『恋のような話』を綴じる。ひさしぶりに読んでみると、ひとが書いた言葉みたいだった。言葉は遠のいたり近づいたりする。言葉には言葉の、本には本の夢想がある。手紙のような本を、と思いながら、どこにも辿りつかない本にもあこがれる。