2017年12月20日水曜日

拾い読み日記 8



 12月20日。駅の階段で足を踏み外して転倒した。激しい痛みでしばらく動けなかった。いくはずだった場所に電話して、いけなくなった、と告げ、足をかばいながら改札に引き返しタクシーを拾って整形外科へ。レントゲンを撮ってもらったら、さいわい骨に異常はなかった。靱帯が少しゆるんだようだ、という診断。歩けなくはないが、痛みがあるうちはあまり歩かないことにする。
 結果的に、足首の軽い捻挫ですんだが、精神的なダメージが大きい。階段で転ぶのは三度目だ。あの、足を踏み外した瞬間の、浮遊感がおそろしい。エアポケットにのみこまれるような瞬間。
 
 どうしてこんなに上の空なのだろう。帰り道、ゆっくり歩きながら見上げた空に、糸のように細い月があった。まだ夕暮れの茜色も残っていて、月は月というより、ただ天にすっと刻まれた光みたいで、せつなくなるくらい、美しい空だった。いつもならここでまた上の空になるところだが、足の痛みと不安でそうはならない。でも、こころがすこし慰められた。わるい日ではなかったと思う。
 
 今は、あまり本を読む気力もない。好きな本の好きなところだけ読みながら、もう寝てしまうことにする。

「家に帰ろう。そこには卵があり、チーズがあり、ワインがある。レコードもふんだんにあって、アンプのつまみをいじればベースのパートを強調することもできる。かくて私は歩みをつづける、ピチカートで。私は幸せなのだろうか? 悲しいのだろうか? なにかの謎に、意味にむかって歩いているのだろうか? あまり考えすぎないようにしよう。私はもはや、希望のごとく張りつめ、愛のごとく満ち足りた、あの基本和声のふるえにすぎないのだから。」(ジャック・レダ『パリの廃墟』)

 Aさんからもらった「ギャラリー・セプチマの三富栄治」、「STORY DE'O」という曲をくりかえし聞いている。聞くたび、何かを思い出しそうになるのは、どうしてだろう、と思う。音が何かを連れてくる、その何かを知りたくて、くりかえし聞いている。