2025年1月27日月曜日

拾い読み日記 316

 
 暗い灰青の空にこまかいうろこ雲がいちめんにひろがり、その奥に、ひとつ、星が見えた。今日は、箔押しの見本をじいっと眺めていたから、そのせいで、星のかがやきから、箔のきらめきに、思いがうつっていった。藍色のもこもこした風合いの紙に、青っぽい銀でなく、黄色っぽい銀で、文字を刷ったら、きっと綺麗だ。光は、言葉なのだろう。はるかむかし、発せられた言葉が、いま、届いた。

 昨日は、ひさしぶりに書類の整理をした。紙の束を部屋中にひろげて、数年間、ためこんでいたものを捨て去るのは、気持ちのよいことだった。

 三年ほど前に、読んでみて、とわたされていた紙が出てきたので、一段落ついてから、狭い仕事部屋から出て、いつも本を読むテーブルで、読んだ。

 中村秀之「最終講義に代えて 「学芸は眉を顰めず」—— 階級のディスクール・断章」は、読書と階級をめぐる、自伝的ではあるが自伝ではない(「自己=社会分析〔auto-socioanalyse〕のための素材」というブルデューの言葉が引かれている)、しかし読む者に近さと親しさを感じさせる、やわらかな語り口の文章で、引用される言葉の数々にこころ惹かれつつ、ゆっくりと読み進めて、読み終えたときには、ある、感慨があった。研究と「生」が、こんなふうにつながっていること、それが、このように明かされたことに、つよく、こころが動いた。それから、あなたは、どうして本を読むようになったの? と問われている気も、したのだった。

 「ただ出口がひとつ欲しかったのです」。
 本という存在によって、暗い場所から抜け出せるちいさな出口を見つけ、そこから、おそるおそる歩いてきた、猿としての、自分の姿が見える。

2025年1月24日金曜日

拾い読み日記 315

 
 誰かが本を読むと聞けば、僕はほっとします。本を読みたいと思う自分にそのひとが出会えたという事実に安心するのです。愛することを望む自分に会えたひとがいれば、それが誰であれ僕はほっとしますが、それと同じことです。(パオロ・ジョルダーノ)

 本屋で手にした、『ダリタリア・リブリ』というフリーペーパーに、いい言葉が載っていた。
 今日も本は読めなかったが、本を読みたいと思う自分は、いた。

 ポスターの制作を進める。昨日描いた絵に、色を塗ってみる。楽しい作業だったけれど、出来上がったのを見てみると、塗らないほうが、ずいぶんいい気がした。
 考え直すことにする。

 53歳の誕生日に、「六花」をみにいった。雪のかたちがこころにしみとおって、なんだか、祝福されているような時間だったなあ、と思いだしている。

2025年1月22日水曜日

『六花』



 宮下香代さんの展示「六花」、gallery SUにて開催中です。宮下さんといっしょに制作した冊子『六花』も、ぶじに、できました。
 作品写真は湯浅哲也さん、栞もついていて、山内彩子さんにことばをよせていただきました
 ごらんいただけたら、さいわいです。

2025年1月12日日曜日

拾い読み日記 314

 
 とても長いあいだ、頭上にかかっていた雲が、今朝は消えていた。どこにいく予定もない朝。のびのびした気分で、スコーンをたべて、落書きをしてあそぶ。
 
 おととい、ふたりの詩人の朗読会にいって、すばらしかったなと思い返して、詩集を読んで、詩を書いてみたい、とはじめて思った。
 今日、数行書いてみて、なんてちんぷなんだ、と投げ出した。

 昨夜は、ふたりの詩集(『ノックがあった』と『冬の森番』)を、食後のテーブルにのせて、Mとちいさな朗読会をひらいた。
 「オールトの雲」を読んだら、「白鳥とラーメン」を読んでくれた。それからもう一篇、「ウィークエンド」を読み、「会話」を聞いた。

 声に出して読むとき、詩が、ふたつの空間にひびく感覚があった。部屋のなかと、からだのなか。空気が変わり、よどんだものが消えていく。しずかな場所で、深い読書をしたあとのように、みたされた。

 (ところできみの好きなものはなに)
 すぐにはこたえられない。どうしてこんなにねじれてしまったのだろう、と思う。

 刷り色が決まらなくて、カラースライダーを動かしてばかりいた明け方、空をみて、無意識にCMYKの数値に変換しようとした、デジタルに占領されてしまったあたまを、まっしろの状態にしたい。空の色がそのまま、なににも変換されずに、しみいってくるこころがほしい。
 言葉は、そのあとでいい。

2025年1月7日火曜日

六花


 『六花』という冊子をつくっています。りっか、ろっか、むつのはな。雪のことです。
 雪をモチーフとした宮下香代さんの作品と、雪のことばをあわせて、一冊にしました。すこし、活版印刷のページもありまして、いま、家で、印刷中です。
 1月18日からGallery SUで開催される宮下さんの展示「六花」でご覧いただけますので、ぜひ足をお運びいただけたら幸いです。
 くわしくは、こちらに。




 今年も、New Year Greetings展に参加しています。盛岡の書肆みず盛りにて。
 書肆みず盛りに、昨年10月、はじめて訪ねることができました。木のにおいのする、あたたかなかんじの場所でした。
 年賀状展の参加者のなかに、なつかしい名前もあって、こうして、あたらしい場所で、いっしょに展示してもらえることを、うれしく思っています。
 お近くの方、どうぞよろしくお願いします。