おじさんは、旅に出かけると決まると、もう、こんなものはいらないや、すてちまおうという気になりました。
ほうきをつかむと、すさまじいいきおいで、部屋の中を掃きはじめました。
ざぶとんだろうが、なくなったと思っていたスリッパだろうが、ごみのかたまりだろうがかまいません。ころがり落ちて、どこかに行ってしまっていた薬のつぶだろうが、置きわすれていた手帳だろうが、さじも、フォークも、ボタンも、封を切らずにほうっておいた手紙も、手あたりしだいに、なにもかも、掃きよせて山にしてしまいました。
その山の中から、めがねが八つ見つかったので、おじさんはひろいだして、かごの中にしまいました。さて、そうして思いました。
「さあ、これから、この目で見るものは、いままでとはまるっきりちがった、あたらしいものばかりなんだ。」 (トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の十一月』)
朝、すこし本を読んだ。よく晴れて、気持ちのよい日だった。手紙を何通か書いた。海のむこうに住む友だちにも。今度会えるのは、いつだろう。
夕方には『どこから行っても遠い町』(川上弘美)を読む。「蛇は穴に入る」まで。しいんとした気持ちになった。先月だったか、吉祥寺の新古書店で買った本。あのとき、急にお腹がいたくなったんだった。
近所のちいさな商店街がとてもふしぎな雰囲気で、物語の中にまよいこんだような気持ちになる。人気のない宝飾店(時計屋?)のカウンターに巨大なぬいぐるみがいたり、和犬がドライヤーの風をゆうゆうと浴びていたりする様子に、目がくぎづけになった。さびれているかと思ったら、シェアキッチンやスイス料理のお店ができていて、ちょっと意外だった。