稲原美苗さんの著書『障害と生きることの現象学 脳性まひの身体からみえる生活世界』(平凡社、近刊)をデザインしました。
エッセイ的な「経験を語る」と論考的な「経験を記述する」のふたつの章から成っていて、どちらから読みはじめてもいいのですが、一度読んだらそれでおしまい、という本ではなく、ふたつの章をいったりきたりして、長く読み続けたい本です。
ゲラを読みながら、書かれていることと自分の思いを、著者の生と自分の生を、いったりきたりして、こころはさまざまに揺れ、ときには、涙が出ました。
「涙は、見えるものと見えないもの、身体と心、内と外のあいだにかかる橋のようなものである。」(「はじめに」より)
涙を「境界をまたぐ声」としてとらえる言葉にはっとしました。それまでは、言葉にならずに、ただ泣いてしまうことを、なんだかはずかしい、と思っていたのでした。
装画について。あらたに描いたのは、流された涙に思いをはせながら描いた青い絵だけで、あとは、手放せずにのこしていた版画のような画のかけらを切って、重ねたものです。あまりあたまでかんがえず、身体のおもむくまま、手のうごくままに作りました。
わたしにとって、装幀という仕事も、テキスト(書かれた言葉)とわたしのあいだにかかる橋のようなものかもしれません。自分の意図やコンセプトで「つくる」のではなく「生じる」ものとしての装幀を、目指していきたいのだ、と思いました。そのことに気づけたのは、とても大きなことでした。
編集は、平凡社の、吉田真美さんです。見本を届けてくださって、わかれたあと、古本屋に寄って、それから吉田さんと最初に打ち合わせをしたカフェにいって、ひとりビールをのみながら、出来たばかりの本を開いたり閉じたり眺めたり触ったりしながら、これでよかった、という思いと、これでよかったのか、という不安のなかで、また揺れていました。そういうたちなのです。でも、「わたしたちは〈あいだ〉で生きている」。本がそばにあるから、だいじょうぶ、と思っています。
