2024年9月15日日曜日

拾い読み日記 310


 一冊の本は、無数の決断で出来ている。決断、もしくは、断念。これは、誰の言葉だったろうか。ある迷いから、本棚から本を取りだしては開いて、やみくもにページをめくっていた。とても、疲れた。

 あの日、博物館に向かっていたときは、まだ、怒りがあった。だいぶ、よわってはいたが、その怒りによって、やりとげる力が得られたような気がした。

 しかし、博物館から出て、カフェに入り、ビールをのみながら、空を見上げてちいさな飛行機の影を目で追っているときに、ある思いが、降りてきた。
 こころを濁らせてはいけない。

 かれにとっては、一片の土地の住民と小さな虫たちの苦痛こそが問題なのであった。この小さな存在がかれの「連帯」の相手であった。(市村弘正『小さなものの諸形態』)

 小さな存在として、小さな存在のために、あたえられたからだとこころを使うこと。

2024年9月12日木曜日

洋書まつり 2024



 今年も、洋書まつりのチラシをデザインしました。
 本のポスターをつくるときは、本ってなんだろう、なんだったっけ、ということを、かたちからかんがえる(そして、わからなくなる)のですが、その作業が、たのしいです。
 今年は、こういうかたちが、出てきました。
 洋書まつりは、新刊も古本もある、洋書のバーゲンフェアです。きっと、未知のものにふれられます。
 10月18日と19日、東京古書会館で開催されますので、お時間がありましたら、ぜひ。


 今は、十田撓子さんの第二詩集を作っています。
 発行者は宮岡秀行さんで、わたしは、編集・制作、デザイン、組版をやっています。
 
 刊行にあわせて、10月13日に、秋田県鹿角市の大湯でイベントがあります。





 東京では、10月25日から、荻窪のTitleで、刊行記念展を開催します。会期中に、朗読/トークイベントもあります。

 くわしいことは、あらためてお知らせしますので、どうぞよろしくお願いします。

2024年9月1日日曜日

拾い読み日記 309

 
 弱った蟬が、びびび、ぶぶぶと音を立てて、力なく飛びまわっている。夜の廊下で、まるで、取り乱した人みたいに。どうしたものか、いや、どうもできない、と通り過ぎようとしたとき、蟬が、服の、裾のほうにとまった。じっとしている。あわてずに、さわがずに、蟬を服につけたまま歩き出すと、やがて、飛び去った。蟬に、柱か壁だとかんちがいされたのだろうか。すくなくとも、危害を加えるものではないと思われたことは、たしかだろう。かんちがいされたことが、すこし、うれしかった。

 眠りが浅く、深夜2時ごろ目が覚めてしまう。暗いなかで目をつむっていても、いっこうに眠気はおとずれない。

 もうくりかえし読んでいる杉浦日向子『YASUJI東京』を、また読む。
 井上安治が小林清親に入門した雪の日を描いたページがとても好きで、じいっとその白い風景のなかに入りこむように見ていると、こころが、おちついた。しんしんとしずけさが降りつもり、まぶたにも胸にもあたまにも白がひろがって、ようやく眠れた。