草森紳一写真展「本は崩れず」、森岡書店にて開催中です。
蔵書の写真や本を読む人の写真、そのほかおびただしい数の写真が、テーマ別に箱に入っていて一枚一枚見ることができます。
とりわけひきつけられたのは、鏡やガラスに映った自分を撮ったセルフ・ポートレイト。これが、かなりの数、あるのです。室内の鏡、街角のショーウィンドウ、道路のカーブミラー、喫茶店や洗面所の鏡などなど。これがもし他の人だったら、ナ、ナルシスト? と思ってしまいそうですが、草森さんの表情はそうした甘さとはまったく無縁で、あくまでクールな観察者の面持ち。さながら自分の幻影を捕獲するハンターのようでもあり……。ようするに、かっこいいのです。
それにしてもなにゆえこんなに自分を撮ったのかしら……と気になりつつ手にした草森さんの本の目次には、「私は誰なの」という言葉が。
よく考えてみれば、自分とはなにものなのだ、どういう顔をしているのかも、よくはわかってはいないことは確かだ。それ故わかっていないのだから、自分の顔写真を見てもわからないのが、当然なのに、これが自分だとは、やはり思える。このわからなさとわかることとの幽冥感。
「私は誰なの ルイス・キャロル/その『中有』の刑」(『悪食病誌 底のない舟』昭文社出版部刊)
こんな文章をお酒を飲みながら読んでいたら、酔いがまわりすぎてしまって、「不可解な気分の中に浮かぶ自分」をただ持てあましました。
写真展では、『草森紳一が、いた。 友人と仕事仲間たちによる回想集』も販売しています。搬入のお手伝い中、草森さんの顔をじいーっと見つめていたら眼の中にその姿がくっきりと焼きついてしまって、家に帰って熱に浮かされたようにこの本を手にしました。草森さんの過剰摂取であたまに血が上り、眠れなくなった夜です。
翌日の矢崎さん南陀楼さん対談も、愛と笑いに満ちていてたいへん愉しい思いをしました。生前お目にかかれなかったのは残念ですが(ほとんど著書を読んだことがなかったし……)、物書く人との出会いに遅すぎるなんてことはないでしょう。
ということで、こんにちは、草森さん。ようやくお会いできました。
追伸 かまくらブックフェスタに参加します! くわしくは、追って…