2018年3月11日日曜日

ことばのこと




ことばを集め、刷りはじめて、11年がたちました。
最初はプリントゴッコで、今では小さな活版印刷機を使って。
活字を組み、インキを練り、紙に触れ、順を追って作業を進めて印刷して、刷ったことばに見入っていると、何となしに、ひとつのできごとをつくっているような気がしました。

那覇の言事堂で、これまでに制作した本や、刷ったことばを展示します。見たり読んだり、さわったりめくったりして、自由にたのしんでもらえたら、うれしいです。

沖縄にいくのは、2012年の「活版とことば」展以来、6年ぶりです。あれからさまざまな変化がありましたが、こうしてヒロイヨミ社をつづけています、と、誰にともなく報告したい気持ちです。

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ヒロイヨミ社「ことばのこと」

2018.3.20(火)—  4.1(日)
会場:古書の店 言事堂2階ギャラリー
〒900-0014 沖縄県那覇市松尾2-21-1
火-金 11:00—18:00 土・日 19:00まで
※会期中3.26(月)、27(火)はお休み

「言葉の朗読会」 3.21(水・祝)19:00
定員5名(要予約) 入場無料
言事堂 2階ギャラリーにて
*当日、朗読したい本などをお持ち下さい。
*飲み物は会場にて販売いたします。 ビール/珈琲/紅茶etc…

予約・お問い合わせ 言事堂 tel/fax 098-864-0315
info(a)books-cotocoto.com ((a)を@に置き換えて下さい。)
http://www.books-cotocoto.com

2018年3月5日月曜日

拾い読み日記 27


 あたたかいけれど雨風が強く、どことなく落ち着つかない日だった。今日も製本の続き。種類が多いのでなかなか終わらない。すこし疲れて、穴を空ける箇所をまちがえたりした。作業はまた明日にする。
 
 那覇での展示が近づいてきたので、ちょっとあせりはじめている。確定申告もまだやっていない。手帳を開いたり閉じたりして予定の調整ばかりしている。じわじわと、遅れている。

 こういうときは宇宙の本を読むのがいいだろうと思って、『からだは星からできている』(佐治晴夫)を手にした。タイトルに惹かれて買った本。宇宙のこと、人間のこと、生きること、死ぬこと。やさしい語り口で読みやすい。ときどき、宮沢賢治を思いながら読む。
 
「そして、私たちが一生を終えた時、私たちの体を構成していたすべての物質たちは、再び小さな粒子となって地球に戻り、数十億年後に、太陽が地球をのみ込むほどに大きく膨張すると、宇宙の霧となって、宇宙に戻ることになります。
 私たちの存在は、このような広大無辺な宇宙進化の中の、物質循環のひとこまだということなのです。」

2018年3月4日日曜日

拾い読み日記 26



 あたたかな風が吹き荒れている。ニワトリも相変わらず鳴いている。さまざまなものたちが動きだしている気配に、春だなあ、と思う。

 昨夜、作業のあと出かけて、本屋でなんとなく『センス・オブ・ワンダー』(レイチェル・カーソン)を買った。かつて持っていたし、読んだことはある気がしたが、開いてみたら、また誘われているような気がして。そのあといつものお店で、ゆっくりと読んだ。言葉を追ったり、写真を眺めたり、顔を上げたり、森を散歩するように、気ままに。
 
「鳥の渡り、潮の満ち干、春を待つ固い蕾のなかには、それ自体の美しさと同時に、象徴的な美と神秘がかくされています。自然がくりかえすリフレイン——夜の次に朝がきて、冬が去れば春になるという確かさ——のなかには、かぎりなくわたしたちをいやしてくれるなにかがあるのです。」

 やさしくてみずみずしい言葉にふれられて、身体に力がみなぎるのを感じた。よい夜だった。
 
 今日も一日、製本の日。その前に近所をすこし歩いてみよう。さっき、畑に二羽の白鶺鴒がいた。身体の色が、白、黒、灰色で、上品で美しい。尾を上げ下げする様子は、かわいらしい。

 「……毎日視点を新たにします こんなにさまざまなことに近づきたい気持ちが 毎日ふくらんでゆきます……指で掘った穴の中に 植物と動物の名をうずめます そのあと草に座って しだの形とくじゃくの尾を愛でるのです」(ズビグニェフ・ヘルベルト) 7年前に手帳に書きとめた言葉を、ふと思い出した。たしか、安曇野のちひろ美術館で手にした本で拾ったのだっただろうか。そのあとこの本を買った気がするが、今は手元にない。
 知ることより感じることのほうが大事、とレイチェルはいう。

2018年3月3日土曜日

拾い読み日記 25


 今日は一日製本の日なので、明るいうちに外を歩きたくて、朝食をとりに出かけた。午前中の光をゆっくり浴びるのは久しぶりで、何もかもがまぶしく、かがやいて見える。紅梅と白梅の木を見かけた。さっき穴から出てきたモグラみたいにうきうきする。これからしばらく家での作業が続くので、ときどきこんなふうに、朝、自分を外に連れだしてみようと思う。昨日の昼間はほとんど家から出なかったせいか、だるくて気が散ってしょうがなかった。今朝は、おだやかですこやかな気分。

 パン屋のカフェで、買ったばかりの文庫本を読んだ。ヴァルター・ベンヤミン『ボードレール 他五篇』。読みたかった「カフカについての手紙」が入っている。

「カフカという形姿を、その純粋さとその独自な美しさとにおいて、正しく評価するためには、それが挫折した人間の形姿である、というひとつのことを、ひとはけっして見失ってはならない。この挫折にはいろいろの状況が絡まっている。が、ぼくとしてはこういってみたい——かれには、究極の失敗が確かに思えてから、ようやく、途上のすべてが夢のなかでのようにうまくいったのだ、と。」
 
 製本に戻ろう。まず『恋のような話』を綴じる。ひさしぶりに読んでみると、ひとが書いた言葉みたいだった。言葉は遠のいたり近づいたりする。言葉には言葉の、本には本の夢想がある。手紙のような本を、と思いながら、どこにも辿りつかない本にもあこがれる。

2018年3月2日金曜日

拾い読み日記 24



 3月になった。昨日は4月みたいにあたたかくて、昼間はコートを手に持って歩いた。立川で用事をすませ、南武線に乗って武蔵小杉を経由して、学芸大学へ。ふだん使わない電車に乗ることが、旅のようで楽しかった。
 SUNNY BOY BOOKSで大平高之さんの展示「komorebi」。もののかたち、しずかな気配、あたたかな光。それらを繊細に、たしかな目と手でとらえた絵。隣にことばを置くとしたら、それはやはり詩だろうな、と思った。

  銀河系のとある酒場のヒヤシンス  閒石

 昨日、歯の治療中に、ふっと脳裏を過ぎった句。とはいっても、「とある宇宙」と、まちがって過ぎった。銀河系のとある宇宙。ねじれている。
 
 SUNNY BOY BOOKSでは松浦寿輝『官能の哲学』と『考える人』のバックナンバー(文庫特集)を買った。

「発語は、程度の差こそあれそのつどつねに、「わたし」ならざるものへ向かって溢れ出してゆくことを「わたし」に強いるのだ。」(『官能の哲学』)
 
 えんえんと続く作業の途中でそう思うみたいに、何をやっているのだろう、と思うことはあるけれど、まだしばらく日記を続けてみたい。 
 
 今日も、わりとあたたかい。近所のニワトリがひっきりなしに鳴いている。紙を発注したり、凸版を発注したりして、ちょっと疲れた。流れ目やサイズにまちがいがないように、何度も確認した。これから製本の時間。その前に珈琲を淹れて、すこし本を読みたい。作業が終わったら、どこかでお酒をのむかもしれない。