モニタを凝視して文字や画像の位置と大きさを微妙に調整しつづけていると、息は浅くなるし肩もこわばる。ベランダに出てみると、思いがけず青空が見えた。西の空と東の空では色がちがっていて、西のほうのシアンには、マゼンタがすこしだけ混ざり、東のほうのシアンには、イエローがわずかに入っている。雲の色もちがった。西の雲は光を含んだ乳白色で、あまくあかるい夢のような色。東の雲はおだやかな濃淡のあるライトグレー。いずれも南の一点にむかってうごいている。流されていく。
テニスの試合を見る人のようにあたまを右に左にしばらく動かし、それから部屋に戻り、 つかれた、とひとりごとをいってぬいぐるみの隣にねころんだ。手をのばして、一冊の詩集を手にした。今みた景色にふさわしい言葉がほしい、と思った。
詩は読まずにエピグラフだけ読んで、今日の読書はそれでおしまい。
一冊の本はおおきな共同墓地である
そこでは大部分の墓石の名が風化して
もはや判読できない。
マルセル・プルースト