2025年6月11日水曜日

拾い読み日記 322

 
 梅雨空はあわい鉛色。たっぷり水をふくんだ墨の色。町を覆いつくす憂鬱な灰色に彩りをあたえているのはシジュウカラのさえずりで、数日前からその声を耳にしていた個体が、今朝、隣家のアンテナにとまっているのを見かけた。近くの木にいるらしい別の個体と鳴き交わしている。あのようにちいさなからだから発せられる音とはとても思えず、しばらく眺めていても、その不思議は消えない。距離感の問題かもしれない。あの場所に存在する小さな「もの」と、ここに存在するくっきりした声の関係が、うまくつかめない。

 数日前に読んでいたミシェル・レリス『オランピアの頸のリボン』をひもといて、とある箇所をさがしながら目にとまった別の文章を読んでいたら、またあの鳥があのアンテナでさえずりはじめた。レリスの言葉と鳥の声がつかのま重なり混じり合う。詩の一行に異なる言語が不意に挿入されたような、それはいきいきとした違和感だった。

 レリスは、書くことを、投縄で獲物を捕まえることにたとえる。「そして、この投縄がとらえるのは、わたしの外部にしろ、内部にしろ、つねになにか野生的な(生で、手つかずで、そのうえ御しがたい)ものであるのではないだろうか?」(下線部は傍点)