2010年10月28日木曜日

電車の時間





からだの中に、辻征夫さんの詩をいくつもしまいこんだ小さな箱があります。詩はたまにそこからひょっと出てきて、たいていそれは外出先でのことなので、帰ってきて本を開いて、答えあわせのように拾い読みします。


これは京成押上線にのって先輩の住む町、立石に向かう途中で思い出した詩。地上に出たり川を渡ったり、空は澄んで明るくて、ああなんて気持ちのよい電車の旅よ、とうっとりしていたら、辻さんの「東武伊勢崎線歌」がひょっこりと。次々に通りすぎていく駅の名前や窓の外の景色や思い出や思いつきや呟きやぼやきやまぼろしやあれやこれや、ようするに目に映るもの頭に浮かんだこと、そのすべてが、境目が見えないくらいまろやかにまざりあって流れていく、そんな詩です。はじめて読んだときには、どうして電車に乗るとひたすらぼんやりしてしまうのか、そしてそういう時間がとても好きなのか、その答えがここにあるなあと思いました。



 あさくさ


 なりひらばし


 ひきふね


  (中略)


 昨日少年の谷中の

 もうひとりの先生と歩いた浅草 墨堤あたり

 このあたりでうろついてしまった半世紀

 本所緑町で生まれたと思っていたが

 先日戸籍謄本のあたまのごちゃごちゃを読んだら浅草で生まれたと書いて  あった

 (昔から書いてあったにちがいないがあんなものだれが読むものか)

 いったいどこの

 生まれなのだろう

 どこでも

 いいひきふね


     「東武伊勢崎線歌」より(『萌えいづる若葉に対峙して』所収/思潮社)



東武伊勢崎線と京成押上線に共通するのは、「中央から離れてゆくやすらぎ」でしょうか。秋の終り、立石で冷えすぎたビールを飲んだら、また鼻風邪をひきました。


(写真は復元された明治時代の活字を使って刷ったもの。活字についてくわしくはこちらに)



追伸 行  く  秋  や  眠  る  男  の  あ  た  た  か  き

2010年10月16日土曜日

くるおしい日々





香港の街をうろついたり本屋さんに行ったり、巽さん正成さんの展示をみたり、「工房からの風」を感じていたりしたら、家にどんどんすてきなものが集まってしまいました。なんだかもう……くるおしいほどです。


「工房からの風」では、ただ物を見るだけでなく、その見せ方や包み方、作り手の方々のたたずまい、さらには持ちものとか着てるものとかもなんだかいい感じなので気になったりして、見どころがとても多く、くらくらするくらい楽しみました。作品を見て人を見て言葉を交わしてファンになって、どんどん心が活気づいてきた気がします。このいきおいを、本作りにぜひ生かしたいところです。きっと、生きると思います。

なんといってもいちばん印象的だったのは初雪・ポッケのお二人。初雪が降った日の気持ちをいつもポケットに入れて物づくりを、という名前の由来に、それはあまりにオトメチックすぎるのでは、とキャーと思いながらも、メロメロです……。


写真は現在早稲田のCAT'S CRADLEにて開催中の巽紀子さんの展示「すきまにおじゃまします」で買ったもの。真ん中におじゃまされました。巽さんとは会って二度目にしてゲバラなカフェで猫をゴロゴロいわせつつラムを片手にキューバの葉巻をまわしのみした仲です。……運命?




京都精華大学が発行するフリーペーパー『セイカノート』最新号で、『ヒロイヨミ』を紹介していただきました。どうもありがとうございました。こちらの冊子は京都、大阪を中心にカフェやギャラリーに置いてあるそうです。



追伸 香港のchen mi jiさんが作った張愛玲のスケッチ集、恵文社一乗寺店で発売中です。

2010年10月3日日曜日

紙漉きの旅





girls ZINE 女子のためのジン案内』(ビー・エヌ・エヌ新社刊)に、ananas pressの『colour full/カラ フル』とヒロイヨミ社の「ヒロイヨミ」を掲載していただきました。本屋さんで見かけたときは、ぜひ手にとって、見ていただけたら。


きのうは活版カレッジ主催の紙漉きツアーに行ってきました。紙が植物でできていること、木からのいただきものであることを、あたまでなくてからだで理解することができた、おおきな体験でした。やわらかな和紙に触れていると気持ちがしずまる、それは、気のせいでなくて、木の精……。

みなさん休憩をとるのも忘れて夢中で作業していて、その熱気に当てられたのか、はたまた長時間の電車移動のせいか、家に着いたらくったくた!で顔も洗わずに倒れこむようにして寝ました。


追伸 よこしまくんの口元がよこしま?