2020年4月7日火曜日

拾い読み日記 171


 朝10時ごろ、隣のアパートからおじいさんがつぎつぎあらわれて、自転車に乗ってどこかにいく。スーパーだろうか? おちつかない朝だ。今日は混みそうだから、買いものにはいかないことにする。
 仕事をしなくては、と思いながら、いろんなことが気になって、なかなか順調にはすすまない。

 本屋さんはどうなるのだろう。ヒロイヨミ社の本を置いてもらっている書店のことも、かまくらブックフェスタを開催中の書店のことも、夫の古本屋のことも、それぞれに、気になる。ネットで本を買うことがどうも苦手なので、町の本屋が閉まると、どうしようか、とも思う。
 けれど、ひとりのあたまとからだで、すべての問題を抱えこむことはできない。矛盾にもジレンマにも、何らかのかたちで、折り合いをつけていくしかない。みんなつかれているのだから、それぞれの折り合いのつけかたを、だいじにしたい。

 もともとひきこもりがちなので、外出を自粛することには、そんなにストレスは感じない。家にいるだけで人のためになっているなんて、昼寝しても、怠けていても、ちょっといいことをしている気持ちになる。いや、実際、いいことなのだ。もっと、仕事の合間をぬって、ごろごろしたい。
 このところ、「みんなでがんばろう」とか「一丸となってたたかおう」とかいう空気に、疲れている。そうしたものとは、社会的距離だけでなく、精神的距離も、どうにか保ちたい。
 そう思って、ひさしぶりに、リンドバーグ夫人『海からの贈物』(吉田健一訳、新潮文庫)を手にした。

 それはただそこにあって、空間を満たしているだけなのである。この騒音が止(や)んでも、それに代って聞えてくる内的な音楽というものがなくて、私たちは今日、一人でいることをもう一度初めから覚え直さなければならないのである。

 「もう一度初めから」。読書をしたい。その時間は、じゅうぶん、与えられた。