2019年3月4日月曜日

拾い読み日記 89


 花飾りを編み、できあがったら、すぐに丁寧にほぐすこと。
 目の前に画布(キャンヴァス)などないのに、絵の具を取り、パレットの上で混ぜること。鑿(のみ)もなく、彫刻家でもないのに、彫るための石を注文すること。馬鹿げたことをすること(私たちの時間全体を軽薄さへと引き延ばすこと)。生きているという意識と隠れんぼをすること。
 まったく無言で、私たちの言葉のあらゆる夢を彫刻すること。行動のあらゆる計画を無気力のうちに停滞させること。(フェルナンド・ペソア『[新編]不穏の書、断章』)

 今日も雨。ペソアを読みたくなる空の色。灰色にはいろいろな色が混ざっている。陰鬱な色も柔らかな色も烈しい色も微かな色も。外をみると屋根も道路も木々もぬれていて、窓を開ければ冷たい風が吹いてくる。雨の日にしか読めない本や、読めない言葉があると思う。たとえば、あるとき、「人間が嫌で嫌で」たまらなくなり、海を見てしばらく過ごした人の句に、強く心惹かれたりもするだろう。

 わが襤褸絞りて海を注ぎ出す  中村苑子