2019年2月13日水曜日

拾い読み日記 74


 寒い朝。Sandro PerriのIn Another Lifeを聴いている。すきな声、すきな音。歌詞の意味はよくわからないけれど、さまざまな感情や記憶がよびさまされ、それは欠片になって音とたわむれる。いつまでも聴いていたいと思う。
 今朝は明け方に目が覚めることなく、8時すぎまでぐっすり眠れた。おかしな夢をいくつもみたけれど、疲れはわりととれた気もする。
 おかしな夢。ある人に、自分が買った本について誤解される夢だった。買っていない本を買ったと思われ、軽く失望されて、ちがう、といいたいのに伝わらない夢。本を買うことをめぐる厄介な自意識についてかんがえさせられる。人のことは、別に気にしなくてもいいのに、と目が覚めた今は思う。

 昨日は夫と神保町散歩。二人とも本をたくさん買った。今日はそれらをテーブルの上に積みかさね、気の向くままに、開いたり閉じたりして、過ごしたい。

 わたしはまだ生きていてそのことに感謝している、自分自身を裏切らず生きていこうとすることでその感謝の気持ちを示すことももしや許されるのではないでしょうか。わたしが遠慮することなく思いのままに物を書くようなとき、生真面目この上ない方々の眼には、少しばかり奇妙に映るのかもしれません。しかしながら、言葉の中にはそれを呼び覚ますことこそ喜びであるような未知の生のごときものが息づいている、そう願いつつ望みつつ、わたしは言葉の領域で実験を続けているのです。(ローベルト・ヴァルザー「わたしの努力奮闘」)

 ある夜に展示を見に来てくれた方の様子と物腰が、やわらかな旋律のようだったなと思いだしている。その人に、書くように刷りたいと思った、といった。書くように、書くこととして。『三日月と金星のあいだ』は、少しずつ刷っていく過程で、言葉を足したり引いたり組み替えたりしたことが、実験みたいで夢中になれた。
 「楽器を演奏する人は誰でも、その楽器を通して歌おうとしていると思うんだ。」(Sandro Perri)
 活版印刷は、自分にとって楽器なのかと一瞬思った。他のやり方で歌いたいとはあまり思わない。