2012年1月24日火曜日

in the mood for travel






会社に勤めていたころは家でどんなにつらいことがあっても(同居の姉と喧嘩が絶えなかったのです)、出勤してなんでもない会話をするだけですこし気持ちが晴れた気がしたものです。「雪降りましたね」とか「寒いですね」とか、ほんとうに、とるにたらない言葉を交わすだけで。人がいる、人といる、ということの、うれしさ、ありがたさ。だれかといっしょにいるときの自分は、一人きりでいるときの自分とは、ちがう人間です。きっと地上から何ミリか浮いているはず。


家でしごとをするようになり、「いってらっしゃい」、と同居の人を送り出したあとは、一人きりです。べつにさびしいわけではなくて、一人になれて心底ほっとする部分もかなりあります。なにかを読んだり書いたり考えたり感じたり作ったりするときは、やはり一人がいいのです。だれかいると、気がみだされるので。そのだれかは、わりとみだし上手なので。


そんなわけで夜になって人が帰ってくるまでは、手足はじめさまざまな箇所を伸ばしてのびのびやっているわけですが、かなしみや憂鬱もふいにやってきて、居すわったりします。そういうとき、twitterというのはとてもありがたい。なんでもない言葉、垣間みえる友人たちの日常に、ふふふと笑っているだけで、雲の切れ目から光が射したりするのです。


今朝は、twitterではないけど、mina perhonenの皆川明さんの旅をめぐる言葉に、気持ちをかろやかにしてもらいました。ああ、どこかに行きたいなあ。でも今は行けない。かわりに、旅心を誘うものごとを、あれこれ思い浮かべてみることに。


……地図と地球儀。絵はがきのPAR AVION。まっさらな手帳。窓辺の光。ふわり流れる珈琲の匂い。ひこうき雲、ひつじ雲。鳥の影。虹。煙突と給水塔。どこからか聞こえる楽器の音(へたなほうがよい)。ウクレレとアコーディオンの音色。遠くを横切る野良猫。犬が星見た。てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った。《蝶キタレリ!》韃靼ノ兵ドヨメキヌ。線路を歩くふたり。夜のプラットフォーム。季節のはざまで。道に迷ってる人。友だちのうちはどこ? こうしてはいられない。さすらおう、この世界中を。いよいよ南を知ることができるのです……。桟橋からあの異国の船に飛び乗って、アディオス、フェアウェル。……


(スペシャル・サンクス:武田百合子/安西冬衛/辻征夫/蓮實重彦/ダニエル・シュミット/アッバス・キアロスタミ/渡辺健二/奥田民生/ビクトル・エリセ/細野晴臣)


先々週、Coming to Tokyo this week!のメールのすぐあと、風のようにやってきた友人と再会し、つもる話をたくさんして、たのしくて、日比谷駅での別れ際。「じゃあ、また会おうね、東京で、香港で、世界のどこかで!」「うん、わたしたち、つながってるものね」。そんな会話のあとハグして別れ、地下鉄の階段を下りながら、ちょっとだけ一人笑いしました。英語でいえることが、なぜ日本語ではいえないんだろう。


写真は、昨年3月はじめ、その友だちの結婚式に参加するために訪れた、シドニーの宿にて。初秋の朝の光が、まぶしかったのです、とても。



追伸 it was lovely to have you there.