2011年7月26日火曜日

机上の灯台





どこにも出かけずだれとも会わず、ただひたすらに家で作業しなければ、という日、せめてお昼には外の空気が吸いたい、と人恋しいようなそうでもないような気分でぼんやり近所を歩いていて、学校がえりの小学生の小ぜりあいなどに出くわすのは、なんとなくゆかいなものです。

「うるさいデブー!」と素っとんきょうな甲高い声を残して逃げ去る男子。「デブじゃないからー」と低い声でつぶやく(すらりとした)眼鏡女子。声の低い女の子ってみょうに気になります。背中のランドセルと大人びた雰囲気がちょっとアンバランスで目が離せないかんじ。あのばかっぽい男の子のこと、じつは好きだったりして、などと妄想するのもまた愉しいことです。……ああ、娯楽が足りてないのかもしれません。

8月から10月にかけて活発に活動しますので、いまはそのことであたまがいっぱいです。


さて、9月上旬にみずのそらでグループ展があります。「机上の灯台」、くわしくはこちらご覧ください。二年前の「水の手紙/空の余白」につづいて、活版印刷でつながった友人たちとの展示です。現在DMを制作中ですので、できあがったらまた写真など掲載したいと思います。


それから草森紳一さんの写真展「本は崩れず」、森岡書店にて開催されます。縁あってちょっとお手伝い(お店番とか?)することになりそうです。

「本は崩れず」はこちらの帯文から。100回に1回はいいコピーを書きますね、と編集者にいったら「いや10回に1回だ」と。毎回書けばいいのに。『本が崩れる』と『本の読み方』、合わせて読んでからご来場いただくと、より楽しめるかもしれません。


写真は数年前に行ったジュネーブにて。

遠くに見えるもの、あれは灯台? 撮ったときは気がつきませんでしたが。



追伸 最後はみんなで「岬めぐり」合唱しますか

2011年7月20日水曜日

とりとめもなくなにもかもが





夏なら、うちのまわりには、よく、しまいわすれたくまでとか、バケツ、うっかりおいたままのぼうし、ねこにやるミルクのおさらなど、とりとめもなくちらかっていて、見るからにたのしくなってしまうものなのに。なにもかもがほうりだされたまま、あしたになるのを待っているなんて、のどかで、人のすんでいる家らしくて、いい気持ちのものなのに。


トーベ=ヤンソン『ムーミン谷の十一月』(鈴木徹郎訳・講談社青い鳥文庫)



家の中が片付かなくたって、まあいいじゃないですか。スッキリしすぎた部屋なんて、おもしろみがないです。(人も。)


写真は香港のキンコーズ的なところ。とりとめもなくちらかっていて、のどかな気持ちになりました。あのパイナップルは、なんだろう……。



追伸 なんだかいまひとつ仕事に集中できないのは……はっ片付いてないから?

2011年7月6日水曜日

再会の夜





 ひとりの夜、仕事をすませてシャワーを浴びて、なじみの大きな本屋さんに出かけ、黄色いお花が咲きみだれた楽しそうな本を一冊買って、それからちょっと一杯ビールをひっかけたあと、あやしげなネオンをかいくぐって、いそいそと映画館へ向かいます。大人になって、東京に出てきてよかったなと思うのはこんなときです。


「動くな、死ね、甦れ!」と「ひとりで生きる」を観て恋をしたパーヴェル・ナザーロフに、「ぼくら、20世紀の子供たち」で16年ぶりに会えました。息がつまりそうなほど蒸しあつい日、池袋の文芸座にて。


 なんにも見ていないような目をして、風に吹きとばされそうなうつろな佇まいでギターをつまびく彼、その顔のまわりの蒼い空気は子どものころとまるで同じで、胸がきゅうと締めつけられました。そして、かつて共演したディナーラ・ドルカーロワとの再会のシーン。塀の中に入ってきて婉然とほほえむ彼女を前にして、思わず顔をそむける彼。そのかすかにゆがんだ目元と口元。内面の激しさと弱さとやさしさがあふれ出るように露わになったその瞬間、性懲りもなく、また彼に恋をしてしまったようです。なにかを堰き止めているかのように、低くおさえめの声も好き。


 映画は、みる、というより、仰ぐ、浴びる、浸るという動詞がぴったりです。わたしにとっては、電子ブックが「本」でないのと同様に、テレビやパソコンでみるものは、「映画」ではなく、別のもの。「映画」には、なにより、暗闇とスクリーンと他人の気配(知人でなく)、もしできれば、そのあとは余韻にひたりながら珈琲かビールをたのしむ時間が必要です。家を出るときから帰るまで、映画を観るまえ観たあと、その一瞬一瞬の心の揺れまでもすべて含めて、「映画を観る」ということに含まれています。


 カネフスキーの映像には、身も心もガッサリと持っていかれていいようにされてしまうので、家に着いたらもうよれよれに疲れていました。闇の中で聞いた、たくさんの歌を耳の奥にかすかに感じながら寝床に倒れこんで、家人に「(灯りが)まぶしい!」「(音楽が)うるさい!」「眠い!」(じゃあ眠れば?といわれた)と大声で文句をいっていたら、いつのまにかなるほど眠っていました。



追伸 今までで一番おいしいビールだ、とアナちゃん(緊急来日)。再会の表参道にて